舞−HIMEの静なつやら、ネギまのこのせつやらのイラストをちょくちょく描いてます。
「春の中で」刹那Ver
2007年06月06日 (水) | 編集 |
このせつSS。

木乃香Verと対。
先に木乃香のほうを読むのをお勧めします。
ほのぼの。


今、私はお嬢様と共に散歩をしている。


暖かな日の光が空から絶え間なく降り注ぎ、私とお嬢様を包んでくれている。
こんな陽気だからだろう。今日はお嬢様が私を散歩に誘ってくださった。
まっすぐに続く道の脇には桜の木が連綿と続いている。
咲き誇る桜は八分咲きといった所だろうか。


あぁ…、それにしても本当に散歩するのに合う天気だ。
それに気分もとても良い。
それはお嬢様とこの穏やかな時間を過ごせるからだろう。
散歩に誘って下さったお嬢様に感謝せねば。
…あれ?お嬢様が笑ってる?

「どうか致しましたか?」

自分では気付かずに何かへんな事でもしていただろうか?
お嬢様がこちらを見た。

「なんでもないえ。ただの思い出し笑いや」

そう答えたお嬢様の声に、少し楽しそうな雰囲気があった。

「そうですか…」

思い出し笑いって…何を思い出されたのだろう?
お嬢様の様子からだと、その思い出は面白くて、大切なものなのだろうと思う。

「…ん?」

お嬢様の頬に桜の花びらが当たった。
風に吹き飛ばされてきたのだろうか?
まだ散ったばかりの綺麗な薄桃色をしている。

「桜の花びらですよ、お嬢様」

桜の花を頬に付けているお嬢様の様子が可愛らしくて、思わず顔が少し緩んでしまった。

桜の花びらをつまみ取り、周りを見渡すお嬢様。
つられて私もお嬢様から周りの風景へと視線をめぐらす。



――ざぁ…――

桜が揺れている。
暖かい風がもうすぐ満開となる桜とともに、遊んでいる。


「そういえば、桜ってせっちゃんの花やな」

「え?」

突然かけられたお嬢様の声。
一瞬、内容を把握できずに思わず声を出してしまった。

「桜咲、やしね。刹那の間に、咲く、桜」

なるほど。だから突然…。
でも改めてお嬢様からこんな風に指摘されると照れてしまう。

「そんな…そんな事ないですよ」

当たり前といえば当たり前なのに、お嬢様に言われるとなんだか…嬉しい。

「ぴったりやと思うえ?綺麗に咲いて、人を楽しませて、散る姿すら見物の花なんてなかなかないやん。まさにせっちゃんの為の花や!!」

顔が赤くなる。
お嬢様は桜を褒めながら、遠まわしに私の事を褒めている。
それ位の事がわからないほど鈍感じゃない。
何か言おうと口を動かすけれど、全く言葉を発する事ができない。

私よりもお嬢様の方がずっとずっと素晴らしい人、そう言いたいのに言葉にできない。

こちらの反応を楽しむように見てくるお嬢様の視線に耐え切れなくて、私は俯いた。



――――そうだ…

「私が桜の花ならお嬢様は桜の木です」

小さく小さく呟いた。

「なんや?せっちゃん何か言うた?」

声が小さすぎて、聞こえなかったようだ。
まだ少しほてっている顔をお嬢様に向ける。

「…私がもし桜の花ならば、お嬢様は…桜の木です」

一瞬、お嬢様が不思議そうな顔をする。

「木?うちが?」

「そうです。お嬢様は桜の木です」

「…なんでうちが桜の木なん?」

首を傾げながら、質問してくる。
お嬢様のその行動が子供っぽくて、少し笑ってしまった。

「木乃香の中に、木、が入っているじゃないですか」

お嬢様が目を丸くする。



…ふふふ。
堪え切れなかったのか、お嬢様が笑い出す。
とっさとはいえ、変な言い方をしてしまった。お嬢様が笑うのも無理も無い。
あれ?お嬢様の顔が少し赤くなっている。
…そこまで変な言い方だったかな?

ふと、お嬢様がこちらを見る。

「なぁ、うちが木なのは分かるんやけど、なんで桜の木なん?」

あ…そ、そうか。そこの理由は言っていなかった。
で、でもそれは…

「え?あ、あの、それは…その…」

自分でも挙動不審になっているだろう事はわかる。
お嬢様が楽しい事を見つけた子供みたいな顔で、私を見てくる。

…木乃香だから「木」である、という風に考えたのは本当だ。
けど、「桜」の木という様に考えたのは……。

い、言えない。

これは言えない。

例えお嬢様でも…いや、お嬢様だからこそ恥ずかしくて言えやしない。

でもお嬢様に嘘をつきたくは無いし…。
うう…、しょ、しょうがない…。

「………秘密です」

やっとこさ、返事が出来た。
お嬢様が意外そうな顔をする。

「ええやん。そないいけず言わずに教えてえな、せっちゃん」

ニコニコしながら、さらに質問を重ねてくる。
でもこんな理由は言うわけにはいかない。
うう、なにか言い訳を…!!

「…いや、その…なんというか…」

私がしどろもどろになっている様子を見て、お嬢様がちょっと不満げな顔になる。
けれどすぐにまた微笑んだ。
…「ニコニコ」ではなく、「ニヤリ」の方がなんとなく似合いそうな顔で…。
何か黒いオーラがお嬢様の背中から…?

「ええや〜ん」

「わわ!お嬢様!?」

いきなりお嬢様が私の腕に飛びついてきた。
一気に血液が頭に集まってくる。

な、な、何でいきなり飛びついてくるんですか!?
そ、そんなに知りたいんですか!?お嬢様!!??
…し、しかし、やっぱりこれだけは言えない。
…恥ずかしすぎる!…今の状態以上に。

「………駄目です。秘密です」

お嬢様を見ないように、顔を逸らして答える。
…目を見たら、なんとなく話してしまいそうになるだろうから。

お嬢様に掴まれている腕にさっきより圧力が掛かる。
お嬢様がもっと密着してきたのだろう。
ますます頭に血液が集まってくる感じがする…。
このままだとのぼせそうだ…!

「分かったわ。無理には聞かへんよ」

お嬢様が腕を放した。
苦笑を浮かべていた。

「すみません、お嬢様」

腕を放してもらい、安堵する。
あんな状態がずっと続いたら、私が耐え切れなくなって倒れてしまいそうだったから。
こちらが折れて、理由を言いたくなってしまうから。

桜の花は、桜の木からもたらされる。
桜の木が無ければ、そこに桜の花は存在しない。
桜の木があるからこそ、桜の花は咲き誇る事ができる。

お嬢様が居るからこそ、私がここに、こうしていられる様に――

だからこそ私が桜の花ならば、お嬢様は桜の木なのだ、と。

こんな理由恥ずかしくて、絶対絶対、言えやしないから。


思わず、ほっと一息つきそうになった。

しかし

ぎゅっ。

「そのかわり、今日はこのままで散歩しような♪」

これ以上無いほど清清しい笑顔で、お嬢様が私の右手を握っている。
驚いて口を開きかける。

「さ、はよ行こ!今日は散歩日和なんやから!」

お嬢様が突然走り出す。
手は握られたまま。もちろん私も引っ張られて、走る。

「わっ、は、走らないで!止まって下さい!お嬢様!」

それでもお嬢様は止まる気配は無い。
思わず苦笑してしまう。お嬢様、らしくて。
今、この時にお嬢様と一緒に走っているのがちょっぴり嬉しくて。

それこそ桜の木と桜の花のように、一緒に。


お嬢様。走り終わるのはもう少し、先、ですか?





桜を揺らす春風はその身の中に優しさを持つ。
春風に包まれる桜は優しさの中で、この季節を楽しんでいるのだろう。
私たちが共にこの、幸せな一時を楽しんで過ごしているように。

こんな春の時間がずっと続けばいいのに―――――優しい、このちゃんと一緒の時間が。

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